ある程度軽くした装備で長い時間歩くことを目的に作ったリュックサックです。
いくら装備を軽くしても長い時間歩けばそれだけで疲れます。顎は落ちて視線が下を向き、背筋は丸まって腰が後ろに倒れ、いくら脚を振り上げても一向に前に進まなくなってきます。もう歩きたくない、座り込んでしまいたい。でも野営地は遠く、まだまだ歩かにゃならない...。そういう時に助けてくれる道具を目指しました。
◾️重量 390g(+-3%程度)
◾️本体容量0〜30L
リュックサックの場合大は小を兼ねないと言われる通り、荷の量が減った場合一般的な構造では側面のコンプレッションベルトなどをいくら引き絞っても袋体が後ろにだらしなく垂れ下がってしまうのを防ぐことはできません。
このリュックサックでは、ショルダーハーネスの末端が本体の背中側ではなく底面に接続して、ショルダーハーネスとトップストラップで本体底面が三方向から常時引き上げられる構造となっています(写真3、4)。簡潔簡素で単純な構造で容量の変化に対応し、荷の多い時も少ない時も荷重を後落させません。
◾️一見ウルトラライト系によくある3ポケットのようですが、実際は大きい単一のポケットです。内部に仕切りがあって実質3ポケットとして働きます。ポケットには結構無茶な量が入ります。日帰り行程や近所の気楽な散歩であれば、本体容量をゼロまで圧縮してポケットだけに荷物を詰め込んで歩くという使い方もできます。正面ポケットの底が本体底面の生地で直接支持されているので、内容物が多い時でもポケットが垂れ下がることはありません。
◾️この容量のリュックサックにはやや過剰と思われるような厚さのショルダーハーネスですが、フカフカのクッション性のための厚さではなく、剛性の強化を追求した結果です。パターン、内部構造、使用材料のすべてを見直して、前回までの製品より格段に剛性を向上しています。
剛性とは形状安定性と考えて頂いてほぼ間違いありません。多くの場合ハーネスは正面から見てS字形やバナナ形に裁断されていますが、荷重がかかるとせっかくのS字形が直線に伸ばされ、胸の前面から腕の付け根に向かってズレていってしまいます。一般的なハーネスでは、胸の高い位置でスターナムストラップあるいはチェストストラップと呼ばれるもので左右を結合して、この腕の付け根に逃げていってしまう現象を避けているわけですが、このリュックサックではS字を維持するハーネス自体の剛性を上げてあるので、高い位置のスターナムストラップは必要ありません。低い位置にあるゴム紐で軽く止めてあげるだけで、ハーネスは胸の前面の狭い範囲に落ち着きます。さらにこのゴム紐が低い位置にあることで、本体の底部を背中の下半分に引きつけて歩行姿勢を補助するようにも働きます。
横から見たとき、普通は平面的なハーネスが人体の形状に沿うことではじめて立体となります。つまりハーネスを立体にする作用と反作用が人体との間に常に働いているわけで、作用があるということは圧力があるということであり、言い換えればハーネスは肩と腕の付け根を常に締めつけ続けているわけです。これを避けるには、ハーネスが肩の頂部に当たる部分をロードリフターとかスタビライザーとか呼ばれる部品で上に引き上げておく解決手段もあります。しかしロードリフターを適切に設計するのは案外難しく、世の中のリュックサックの半分くらいはそれっぽく漫然とくっつけてあるだけのように見受けられますし、そもそもロードリフターは背負うたびに調整し直すという煩雑な手続きが必要なものですが、それを実行しているユーザーも実は少数なのではないでしょうか。
このリュックサックでは裁断形状で立体化したハーネスに、さらに内部構造で剛性を付与することで、最初から肩の曲線にある程度近い立体となるようにして、腕の付け根や腋の下への締めつけを軽減しています。さらに低い位置のゴム紐が背中の下半分と胸郭下部に荷重を伝達して支持することで、僧帽筋付近への鉛直方向の荷重もある程度抜くことができます。
写真5は製作中のもので、このままの状態で使用に供するわけではありませんが、これくらいの強い立体感がついています。
◾️ショルダーハーネスの長さを調節するアジャスターは通常と異なり本体側についています(写真3)。これを、長さを調節するというよりはリュックサック本体を背中の下部に引きつける意識で、前に向かって引きます。
そして胸の前面のゴムひもで左右のハーネスを結合すると(写真6)、ウエストベルトなしでも荷物が背中の窪みに座って安定し、同時に脊柱基部を起立させて、腰を高く保った歩行姿勢の維持を助けます。
とはいえコルセット的に強力に拘束しているわけではありませんから身体の屈曲を妨げることもなく、ウエストベルトがありませんから腰の動きも自由です。
◾️主要な縫い目を極力隠さず、外部から視認できるよう考慮しています。無闇に頑丈さを追求するよりも、状態を把握しやすく、補修修理が容易であることの方が道具のあり方として正道ではないでしょうか。側面の長い縫い目の縫い代は通常なら袋の内側にするところですが今回から外側に移しました(写真7)。これはHyperlight Mountain Gearの最近の製品からの頂きですが、HMGが説明するような袋の内部がクリーンになることよりも、目視点検と補修性の向上にメリットがあるのではないかと考えます。タブやループを後付けするような改造も容易です。
◾️ トップストラップと左右ハーネスのストラップは交換可能です(写真8)。リュックサックで最初に傷むのはストラップ類ではないでしょうか。アジャスターが噛んでいる箇所に癖がついて動きが渋くなったり、よじれ癖がついて直らなくなったりする経験は多くの方がしているのではないかと思います。
◾️胸郭の下部で荷重を支持するために、ショルダーハーネスは極力長めに設計しています。体格や体型によっては余ってしまう場合もあるかもしれませんので、ストラップの取付位置を可動としています(写真9)。一旦ストラップを外してしまう必要がありますから、随時気楽に調整するというような目的のものではありません。最大限長めの位置にしておくのが正規です。
◾️主材料
本体底部及び背面:X-pac V15
X-pacのX格子状の補強層を省いた3層ラミネート生地です。X格子が生地表面に突起として現れない分、摩耗への耐性は有利と考えられます。
流行の超高分子量ポリエチレン系のような超高強度素材ではありませんから岩場を引きずり回すような使い方には向きませんが、歩いて旅をしながら気安く手荒く扱っても不安がない程度の強度はあります。
本体正面(背中から遠い面):DTSR75
ECOPAK系の薄手材料です。これまで袋全体にX-pac V15を使っていましたが、ポケットで防護されている面積が大きく、底面や背面と同じ耐荷重性能や耐摩耗性能も必要ない袋の上部はずっと薄い生地に変更しました。
いわゆるスピンネーカーと言われるセールクロスと似た感触の50デニールトリプルリップストップの薄手ポリエステルに、0.75ミル(約0.019mm)のフィルムがラミネートされています。
向こうが透けて見えるような薄さで一見頼りないようですが、X-pacやECOPAKより裏地フィルムが厚くしっかりした感触があります(X-pacやECOPAKのフィルムは0.5mil)。フィルムの裏打ちがあるため荷重で生地が伸びてしまって揺れるようなこともありませんし、一般的なナイロン地などより張りとコシがあるのでパッキングの際の扱いも楽です。
◾️ループ状にまとめられたストラップの余長部分が、疲れた時の手の置きどころにもなります。この部分をつかんで歩くと更に荷が腰に引きつけられて、ウエストベルト的効果が強まります。
◾️写真10はショルダーハーネス基端と本体の接合部です。
縫い目というものは剪断方向(生地同士がずれる方向)には相当の力に耐えられますが、生地同士を引き離そうとする剥離方向の力には相対的に弱いものです。
ハーネスを本体の袋部分に直接縫い付けず、一旦離れたところに接合部を設けることで、剪断方向を支配的として冗長な補強を省略可能としています。同時に肩周りの運動性も向上します。
トップストラップを締めることでハーネスの基部が上向きに起こされ袋本体に引きつけられます。なおかつ、トップストラップは本体底面に直結して荷重を上に引き上げます。いにしえのキスリングザックと原理的には同じですが、側面のコンプレッションコードもハーネスに直結しているのでキスリングのような左右方向の不安定さはありません。
こういう構造ですから、トップストラップをしっかり締めておくことは非常に重要です。
️◾️ 袋の入口は比較的大きく開きます(写真11)。巾着型でもロールトップでもドライバッグ型でもなく、テキトーに畳むか丸めてトップストラップで押さえるだけです。
前回の製品まで開口部にスナップボタンをつけていましたが、今回思い切って省略しました。変更した生地が厚手のフィルム裏地のために畳んだ状態を維持しやすく、勝手に開いていってしまうような傾向が少ないのでこれで充分と判断しました。不安であればスナップボタンを取り付けるのは簡単ですし(工具なしで取り付けられるものが市販されています)、ドライバッグ形や巾着形、あるいはファスナー閉鎖形に改造するのも容易なはずです。
写真12は本体の内容物が多い時の作者自身の袋の閉じ方の一例です。内容物が少ない時は畳んでポケットに挟んでおくだけです。要はトップストラップで押さえられていさえすればなんでもいいのです。テケトーです!
◾️背中に当たる面に入れておくためにフォーム材を付属していましたが、パッキングのやり方によって個人差が大きいところでもあり、今回から廃止しました。
◾️大重量を楽に背負えるという性質のリュックサックではありません。ある程度の荷物の軽量化は前提です。リュックサック自体を含む荷物の重量が8kg程度までが目安かと思われます。
IAMACATの名前の由来はI am a cat、つまり名前はまだないということです。うまい名前を思いつかなかったものですから。これはこれで気負っていないテキトーな感じが似合っているかと思い、まあずっと名前はないままでもいいかなと思ってます(笑)。